
新湯とは?
What is the “Shin-yu”?
新湯は、十和田八幡平国立公園内の八甲田山中に位置し、ブナの木々に囲まれた大自然に恵まれた温泉地です。
この場所は、源泉の温度が63℃という高温で湯量が豊富な温泉として知られています。新湯の魅力はその大自然の中で、温泉を楽しみながら自然と調和した環境に身を置ける点です。
元々、青森山田学園が所有していたこの場所は、教育目的で使われていましたが、2011年頃まで使用されていませんでした。その後、10年以上の間使用されなかったため、施設が劣化し、元の状態を復旧するためには多くのコストと労力が必要でした。
しかし、この温泉を破棄するのではなく、再生し、教育の質向上や環境への配慮、地域活性化、デジタルデバイドの解消、有事の際の災害モデルハウスなどの目的に活用しようとする取り組みが始まりました。新湯は、国立公園内という希少な学内所有地として、持続可能な運営を目指して再生に取り組んでいます。




新湯再生プロジェクト 詳細年表
教育の質向上にかかる試金石
十和田八幡平国立公園内のオフグリッド(非電化・電波なし)環境にある温泉宿泊施設を舞台に、青森大学が推進する象徴的プロジェクト。
「実践型教育」と「身体性と学びの統合」を通じた、非認知能力育成と地域社会・外部機関との連携の記録。
「青森短期大学八甲田ロッジ」の設置
当時学校法人青森山田学園理事長であった木村正枝により、青森短期大学の第1期卒業記念事業として設置される。十和田八幡平国立公園の特別保護地区(国有林野)を借用し、宿泊棟や脱衣棟などを整備。アクセスは登山道のみ(距離約800m、高低差150m)の環境ながら、63℃の源泉を有し、プロジェクトの原点となる拠点が形成される。
実習・演習としての定期活用
当時の青森大学大学院環境科学研究科の実習・演習や、自然体験活動指導者養成講座の一環などとして、この施設が定期的に活用される。新湯再生プロジェクト発足以前から、同地が自然体験や野外教育の実践の場として機能していた。
施設の遊休化と老朽化
2012年の大学院募集停止後は施設が使われることがなくなり、建物の老朽化と敷地内の繁茂化が進行。かつての教育実践の場が一時的に失われる状態となる。
新湯再生プロジェクト発足
プロジェクトの先駆けとして、総合経営学部(佐々木豊志ゼミ)と社会学部(藤公晴ゼミ)が合同合宿形式で施設の利活用を検討。アクセス道路がないため、放置・解体には現状復帰の多額の費用が生じる課題があった。一方で、このような温泉・教育施設を同地区に有する大学は全国に他になく、未電化地域の通信情報インフラ、観光、薬草、植生などの研究フィールドとしての希少性が評価される。大きな教育・PR効果が見込めることから、青森大学の非認知能力育成を目的とした実践的教育の場として「新湯再生プロジェクト」が始動する。
施設修復と肉体的労力の実践
学生と教職員の協働による数年間にわたる継続的なフィールドワークを展開。具体的には「水源の復旧」や「老朽化した浴舎の修繕」などを実施。これらの肉体的労力を伴う共同生活を通じ、学生たちに暗黙知や責任感、環境意識を養うプログラムが定着する。
専門家を交えた視察と本格的な整備合宿
施設が遊休資産化する直前まで活用していた藤田均名誉教授(元・大学院環境科学研究科長)を迎え、水道や温泉の仕組みに関する現地視察を実施。同年の夏には、前田済学科長(当時)や其田知志客員准教授らの支援のもと、佐々木ゼミと藤ゼミによる3泊4日の合同合宿が行われ、敷地内の草刈りや廃材等の撤去といった本格的な環境整備が進める。 様々な技術的な課題に対して,公益社団法人日本技術士会東北本部青森県支部に技術支援・学生指導の可能性について相談。環境への配慮や経済的循環, 若者の育成などのSDGs的な視点、特に「12 使う責任, 作る責任」が合致することから、継続的に協力するに至る。企画委員会副委員長の高山幸克氏(所属:齋勝建設株式会社)を中心に水道の復旧や浴槽の修繕などの技術支援を受ける。
日本技術士会の支援と水道管150mの復旧
公益社団法人日本技術士会東北本部青森県支部の八木澤聡支部長の支援を受け、技術面・パートナーシップ面で確実な再生の足掛かりを得る。合同合宿では、飲料水の確保と63℃の熱水を冷ます目的で、大雨の過酷な環境下の中、不通だった水道管を水源から1本30mずつ接続を確認しながら約150mにわたり復旧させる作業を完遂。
水道管の全面復旧と外部専門機関との協働合宿
前年度に引き続き、新湯までの残りの約540mの水道管(30m×18ロール)を山林の中に敷き直し、水道の復旧を完了させる。また、野外教育とデジタル・グリーントランスフォーメーション(DX/GX)の統合を目指し、日本技術士会東北本部青森県支部の支援・協力を受けて協働合宿を実施。この内容は高山幸克氏により「令和5年度青森大学八甲田新湯再生プロジェクト合宿報告書」として記録される。また、青森大学経営学部卒業生の小枝孝太氏(株式会社小枝設備工業)から水道と温泉の復旧にかかる技術支援・学生指導を無償で受ける。2023 年度まで合宿の予算は、青森県環境政策課委託「令和元年度大学による環境教育モデル形成促進事業」と「大学による SDGs の考え方等を取り入れた環境人財育成事業」を活用。
SDGs的利活用・実証実験の開始
総合経営学部(後藤ゼミ)とソフトウェア情報学部(下條ゼミ)が新たに参画し、通年型観光コンテンツやワーケーション開発など施設のSDGs的な利活用化が本格化。KDDI財団の協賛を得て、衛星通信網「Starlink」を活用したリモートモニタリングや、災害時と平時の両用を想定した通信・生活インフラ(Dual mode infrastructure)構築に向けた実証実験を開始。情報の地産地消を通した八甲田ロープウェーのオーバーツーリズムなど、局地的な課題の解決やGX・DXの人づくりに取り組む。プロジェクトに参加した社会学部の奥山奈々氏により、卒業論文「野外宿泊研修の効果に関する一考察:青森大学の新湯再生プロジェクト合宿を通して」が発表され、本活動が学生の非認知能力の向上に寄与していることが実証的に可視化される。
大規模合同合宿と浴槽改修の完了
8月18日から22日までの5日間、4つのゼミ(佐々木、藤、後藤、下條)から約90名の学生が参加する大規模な合同合宿を実施。多くの学生が日帰りで参加し、主に浴槽の改修工事を担い、これを完成させる。同時に、地域貢献演習Jの受講生らにより「Starlink」を活用したリモートモニタリングの調査も行われ、ハード面と研究面の両方で大きな成果を上げる。浴槽改修には, 浴槽補強のための鉄筋と骨材, セメントなど 3 トン近くの資材運搬や生コン打設などの労務が伴うため, 齋勝建設株式会社と青森大学 SDGs 研究センターの間で「青森大学新湯再生プロジェクトの連携に関する覚書」を同年4月に交わした。
学際的な総括論文の発表
青森大学付属総合研究所紀要(Vol.27, No.1, 46-53)にて、総合経営学部、社会学部、ソフトウェア情報学部的教員陣(佐々木豊志、藤公晴、下條真司、後藤欣司、前田済)による共同論文「新湯再生プロジェクトの可能性と課題 教育の質向上にかかる試金石」が発表される。
学内における研究活動の波及
プロジェクトの成果を基盤として、現在、学部内において本プロジェクトに関連する新たな卒業研究が「2件」進行中である。単なる体験学習にとどまらず、学生の主体的かつ学術的な探求のフィールドとして機能し続けている。
外部リソースの導入と地域社会との連携
教育の質向上の潮流を踏まえ、青森大学における「大学・高専機能強化支援事業」の導入や、「KDDI財団」をはじめとする外部機関からの協賛の流れを推進。「文理融合」「研究者間の協働」「地域社会との連携」が育まれる場として、新湯での学習機会を大学の局地的な特徴的な学びに昇華させる。
「新湯憲章」と教育の質向上の試金石へ
地球的視野と未来志向の価値観を育む場としての「5つの行動規範」からなる「新湯憲章」の理念を踏まえ、地方小規模大学における実践型教育の象徴的プロジェクトへの成長を目指す。関係者と共創しながら、同地での学びを卓越させ、高等教育の質向上の試金石としての役割を果たしていく。